1時間で民法がわかった!皆が勉強する基本中の基本16項《総則・物権法編》【行政書士・法律資格用】
INDEX
2)民法の総則
民法の総則《目次》
- 1)パンデクテン・システムに注意
- 2)私的自治の原則
- 3)静的安全・動的安全
- 4)信義則
- 5)権利濫用
- 6)善意・悪意(主観的要件)
- 7)休憩
- 8)意思表示
- 9)代理
- 10)時効
ここからは、しばらく民法の構造に関して各分野がいかなる特徴をもっているのかについて書いていきます。
まずは、民法を勉強し始めてすぐ、最初にぶち当たる総則について。
◇パンデクテン・システムに注意
民法は全体の共通点をくくり出し先に学ぶ構造になっている
民法というのは、変わった構造(体系)をしています。
後半の方で共通する概念を、前の方でごっそり引っ張り出し、これを先に解説する構造になっています。
これをパンデクテン・システムといいます。
ドイツ民法が同様の方式をとっています。
つまり、総則という分野は、民法の全体に共通する基本的な考え方をくくり出し、初めの方で解説している分野なのです。
同じように、債権総則も債権全体に関わる共通項を債権総則の分野で解説する形をとります。
これが民法をわかりにくくしている一番の要因ですから、意識して『そういう構造になっているのだな』と先に身構えておく必要があります。
この心構えがあるのと無いのとでは、挫折する可能性が大幅に違ってきますので、無駄な話ではありません。
パンデクテン・システムという構造が『挫折』につながる理由
共通項をくくり出すパンデクテン・システムは、本来、後で勉強する法律論や法律用語・条文が初めの方で登場するという特徴があります。
つまり、まだ解説されていないことが、前の方で解説もなく使われるということです。
ですから、完全に理解しようとすると、いちいち調べなければならず、勉強が全く進まないのです。
これでは、進んでいる実感がわかず、精神にきついため、勉強が嫌になってしまいます。
だからこそ、先に述べたように、全体をざっと回す勉強法が効果的なのです。
わからなくてもどんどん進みましょう。
◇私的自治の原則
死ぬほど重要です。
これを知らない人は民法を勉強したことが無い人である!!!と断言できるほど、重要な原則です。
民法を軽くかじったことのある人でも絶対知っているほど基本的な原則です。
この原則は簡単に言うと『私人間の取り決めは市民の自由意思に委ねましょうね』という原則です。
つまり、民法上の権利義務の発生は、自らの意思でそれを望んだときだけ発生するとされているのです。
他人に強制されて法律上の義務を負うということは、原則としてありません。(例外はありますよ)
あなたが望めば権利を発生させ、または義務もを負う自由があります。
これが私的自治の原則です。
そのため、民法では、個人の意思が大変に重視されます。
当事者が望めば、民法の条文を曲げてでも、これが尊重される場面が頻繁に登場しますし、これが民法の常識です。
それほど、個人の意思の尊重が尊ばれているのが民法の世界です。
◇静的安全・動的安全
安全って?
なんのこっちゃ分かりませんね(笑)
法律は字面の意味が、一般的な意味とは違う意味を指すことが多いですが、これもその一つです。
安全と言われるとなんだか危険から身を守るイメージがあります。
ですが、ここでの『安全』は、誰を保護するのか?というくらいの意味です。
つまり、静的安全は、真の権利者を保護し、動的安全は第三者を保護するということです。
動的安全という言葉は、どちらかといえば取引の安全と表現されるのが一般的です。
下の代理の事例でイメージしてみましょう。
動的安全(取引の安全)の典型例
静的安全はそれほど大々的に問題となることはありません。
対して、取引の安全(動的安全)はかなり頻繁に出てきます。
条文を挙げるなら、94条2項や110条が総則では代表的です。
例えば、下の図を見てみましょう。
ここでは、典型例の94条2項の話をしていきます。
早速ですが、AB間で、土地を売買したとしましょう。
でも、AB間の取引には、94条2項の『通謀』がありました。
通謀とは、2人で申し合わせてAB間でウソ(偽装)の取引をしたような場合です。(AB2人ともウソ取引と理解してます)
例えば、差し押さえを回避するために、Aが『Bさんちょっと土地売ったことにしてくれない?』と持ちかけ、Bさんがこれに応じたような場合が典型例です。
これを通謀虚偽表示というのですが、こういう取引(意思表示)は民法では無効です。(取引と意思表示は厳密には違います)
意思表示とは、自分の考えを相手に伝える事です。(厳密にはもっとややこしいですが、イメージとしてはこれで十分)
つまり、AB間の土地の取引は、94条1項によって無効ということですね。
無効であるということは、そもそも、AB間の取引は無かったのと同じですから、土地について真の権利者は、Aさんのままです。
ところが、ここでBさんが悪い気持ちを起こし、偽装により自分の名義になっているAさんの土地を、Cさんに売っちゃったとしましょう。
このCさんが94条2項の第三者ということになります。
1項と2項はちゃんと区別しましょう。
では、AB間の契約は無効なのに、第三者のCさんは土地の権利を取得することができるのでしょうか?
結論としては、CさんがAB間の契約が無効であることを知らずにBさんと取引した場合には、Cさんは土地の権利を取得することになります。
94条2項のような規定を第三者保護規定といい、いわゆる取引の安全を図る規定と呼ばれます。
第三者保護規定のある意味!
ではなぜ94条2項のような規定があるのでしょうか?
想像してみてください。
こういう第三者保護規定がないと、土地や建物を買う時『本当にこの人は権利者なのか?』『お金を払っても土地は手に入らないのではないか』と常に疑いながら取引をすることになります。
これでは、土地や建物・自動車などを手に入れようとする経済活動は活性化しません。
だからこそ、何の落ち度も無く取引をした第三者は、取引の安全を図るために保護しようとする規定があるのです。
つまり、取引の安全とは、皆なが安心して経済活動ができるように設けられた原則といえます。
皆が安心して、経済活動を営めるように、民法は落ち度のない人を強く保護しているのですね。
◇信義則
『シンギソク』と読みます。
民法は、1条2項に『信義に従い誠実に行わなければならない』と、信義則について規定しています。
この信義則には下記のような類型(種類・分身)があります。
信義則の類型(種類)
- 禁反言の原則(きんはんげんのげんそく)
- クリーンハンズの原則
- 事情変更の原則
- 権利失効の原則
『前と言ってること違うじゃないか』という感じです。
つまり、矛盾した言動・態度をとることはダメだよという原則です。
自分が法律に反するようなことをして置いといて、法律の保護を受けたいなんて許さないよという原則です。
契約を結んだものの、天変地異等の異常事態で、この契約を強制するのが非常にかわいそうな時には、その契約を変更・破棄することも許されるよという原則です。
ただ、余程のことがない限り、認められません。
権利を行使する機会があったのに行使しないで放置し、相手が『もう行使はしてこないな』と信頼した場合には、この期待を裏切って権利を行使するのはダメだよという原則です。
だいぶざっくりしたものですが、イメージ持って頂ければ、あとはテキストなどで厳密な定義などを確認してもらえれば問題ありません。
これらが、いわゆる信義則の分身と言われるものです。
基本的には、上記の類型のどれかで問題を処理していきます。
ただ、信義則は無敵の原則ですので、なんでもかんでもこれで処理すれば、条文の存在はなくても良いということになってしまいます。
ですので、信義則が登場するのは、条文も法律論もないときの最後の最後、最終手段です。
例えば、法的な問題あるとして、この問題は既存の条文を解釈すれば、解決できてしまうような問題だとします。
このとき、いきなり『信義則に基づいいて~○○できない』なんて結論を導けば、一発で大減点をくらいます。
信義則は伝家の宝刀。
この感覚は非常に大切ですので、今のうちに常識にしておきましょう。
◇権利濫用
これも信義則と並んで、結論の妥当性が図れない時に、最後の手段として使われる原則です。
まぁ一般的に使われる意味とさほど変わりません。
その事案で、法律上の権利を行使することが、公平な観点から考えると、認めるべきではないという考え方です。
この原則は民法の1条3項で規定されています。
ちなみに、同じ濫用事例でも『代理権の濫用』とは区別されますので気をつけましょう。
◇善意・悪意(主観的要件)
善意・悪意ってなに?
『え??悪い奴?といい奴?って意味?』
こんな言葉一般的には使いませんね(笑)
ただ、民法に限らず、善意・悪意という概念は重要です。
民事系の法律(民法・商法・会社法など)では広く一般に使われる概念です。
ごく簡単説明すると、善意というのは『ある事項を知っていること』を指し、悪意とは『ある事項を知らないこと』を指します。
下記の図を改めてご覧ください。
静的安全・動的安全の項で94条2項の話をしました。
ポイント
このCさんが94条2項の第三者ということになります。
AB間の契約は無効なのに果たしてCさんは土地の権利を取得することができるのでしょうか?
結論としては、CさんがAB間の契約が無効であることを知らずにBさんと取引した場合には、Cさんは土地の権利を取得することになります。
上の知らずにというところが、善意に当たります。
つまり、善意悪意の話は、『頭の中』の話なんですね。
善意・悪意の内容は?
条文でも94条2項でも条文の文言に『善意』と出てきます。
そして、善意とは、ある事項を知らないことを指すのですが、このある事実というのが、94条2項の事例で言うと『通謀の事実』ということになります。
つまり、94条2項の第三者が保護され権利を手に入れるためには、『通謀の事実』を知らない(善意)の第三者である必要があるのです。
逆に、悪意、つまり通謀の事実を知っている第三者は、保護されず権利を手に入れることはできません。
典型的には、善意・悪意という概念はこのように使われます。
まぁ、何度も何度も頻繁に出てくる言葉ですので、勉強しているとあっという間に常識になると思います.
今のうちに知っておいて損はない言葉ですので、もう覚えちゃいましょう。
◇休憩
ここまでは、民法全般で何度も何度も出てくる最も基本的な原則です。
ここからは、総則の代表的な分野についてざっくりと特徴がつかめる形で書いてみます。
総則でも特に重要な分野である、意思表示・代理・時効についてざっくり書いていきましょう。
◇意思表示
意思表示ってなんじゃそれ?
意思表示とは、一定の法律効果の発生を欲する意思を外に向かってに表示する行為です。
例えば、家を買うシーンを思い浮かべてください。
この時、不動産者さんに行って、契約をすることになりますが、このとき、『家を売ってください』という自分の意思を、不動産屋さんに表示します。
これが、意思表示です。
このとき、売買契約が成立(法律効果)することを欲っして、自分の自由な意思で、これを外部に表示していますよね?これポイントです。
ちなみに、法律効果というのは、ある条文に書かれた要件(条件)が満たされれば、発生する結果です。
上記の売買契約というのがそれですね。
意思表示に問題(瑕疵)があるとどうなる?
では、この意思表示に何か問題があった場合はどうしましょう?
上で赤字で、『自由な意思』がポイントと書きましたが、例えば、この事由が奪われたときなんかに問題となります。
民法では、意思表示の瑕疵(カシ)とし、93条~96条まで規定を設けています。
既に書いた94条の話も意思表示の瑕疵の話です。
上記の売買の例で言うと、『家を売ってください』というところに、何らかの問題があるような場合ですね。
例えば、売ってくれというのが、不動産屋さんに脅されて発言したものであるとか(自由を奪われた)、何かの勘違いでそう言ってしまったような場合です。
結局、この意思表示の項では、意思表示が正常にされているか?それに瑕疵があるならば、どうやって解決するか?そういう話になってきます。
◇代理
代理についての典型例を学ぼう
意思表示も難しいですが、代理も結構難しいです。
イメージを持ちやすくするため下記図をご覧ください。
意思表示は、自分の意志を相手に伝え、どういう効果が『自分に』発生するかという話でした。
対して、代理は、他人である代理人の行った行為の法律効果が、どういう場合に本人に帰属するか?という話です。
ちょっとわかりにくいですね。
例えば、家の売買のシーンを思い浮かべてください。
ここに、AさんとBさんがいたとします。
そして、売買契約を不動産家さんと結んだのは、Aさんとします。
この契約の効果は、普通、Bさんには無関係ですよね?
このように、一般論で言えば、第三者がした契約の効果というのは他人に影響(帰属)しないものです。
でも、代理の場合はそうではありません。
上記の売買の例で言うと、例えば、BさんがAさんに『Bさんのために家を買う権限を付与』していたとします。
そして、Aさんは、Bさんのために不動産屋さんとBさんの代理人として契約を結ぶことになりました。
この契約の効果は、Aさん(代理人)には帰属せず、Bさん(本人)に帰属する事になります。
つまり、不動産屋さんは、家の代金をBさんに請求することができ、BさんはAさんを間に挟まず、直接不動産屋さんに家を引き渡せと主張することができます。
これが代理です。
代理制度がある意味
民法がこのような代理の制度を規定しているのは、忙しい人が他人を利用して活動範囲を広げられるようにすることにあります。
活動範囲が広がれば、楽に経済活動ができます。
例えば、代理制度があれば、沖縄の人が北海道で人に委託してビジネスができます。
対して、代理制度がなければ、沖縄の人がわざわざ北海道に移住しなければビジネスができません。
民法は、代理制度を作ることで、経済が活性化することを期待したのでしょう。
代理にまつわるトラブル!
このような代理ですが、民法では、代理権の問題について様々な規定があります。
例えば、代理人がそもそも、本人から代理権を付与されていない場合(無権代理人)や本来、本人に与えられた代理権を超えて契約をしてしまったような場合です。
代理トラブルの典型例
- 1)権限授与表示による表見代理(109条)
- 2)権限外の行為による表見代理(110条)
- 3)代理権消滅後の表見代理(112条)
- 4)無権代理(113条)
そんな代理権にまつわる問題が起こった場合、果たして本人に代理人のした法律行為の効果が帰属するのかどうか?
もしくはどのような場合に法律効果が帰属することになるのか?そんな問題を、学んでいきます。
結局は、ここの話は、本人に代理人の法律行為の効果が帰属するかどうか?
これがメインテーマとなります。
◇時効
民法上、時効は、取得時効と消滅時効の2つに分かれます。
取得時効は、ある一定期間が経過すると、権利を取得する話。
消滅時効は、ある一定期間が経過すると、権利を失う又は行使できなくなる話です。
よく、TVで報道される犯罪事件などの時効とは、違います。
犯罪の事件についての時効は、刑事上の時効ですので、民法とは違うものです。
この時効の話は、趣旨が全てですので、時効制度ができた趣旨と判例の処理が一番重要です。
ちなみに、時効の趣旨は、下の通りです。
事項の趣旨一覧
- 永続した事実状態の尊重
- 権利の上に眠る者を保護しない
- 立証の困難の救済
一定の期間継続した事実状態が存在する場合、それを前提にさまざまな法律関係が形成されます。
そのような法律関係について一定の法律上の保護を与えようとするものです。
正当な権利者である場合でも、一定の期間、その権利を行使・維持するために必要な措置を採らなかった者は、保護する必要はないでしょということ。
本来は正当な権利者であったとしても、長期間が経過した後にはそれを立証するのが難しくなります。
そこで、それを救済しようとするのが趣旨。
この時効の趣旨は、全部覚えなければなりません。
時効は他にもたくさん論点がありますが、とりあえずはこの趣旨を完璧にすることで十分です。
以上までが総則です。
さぁ!!次ページからは、民法の物権編です!!