1時間で民法がわかった!皆が勉強する基本中の基本13項《不法行為/債権の履行確保編》【行政書士・法律資格用】
INDEX
(2)債権の履行確保手段(担保について)【続き!!】
◇2)人的担保(保証)
民法上、債権は物権と比較して非常に弱い権利です。
だからこそ債権の履行を確保する手段が民法上規定されています。
その中で一般的にも有名なのは『担保』だと思います。
担保は、債務(義務)が履行されないときを想定して債権の履行確保の道を準備しておくことですね。
担保には『物的担保』と『人的担保』が存在します。
物的担保は後で書かせていただきますが、代表的なものは『抵当権(抵当権)』です。
これに対して、ここで書いていく人的担保の代表例は『保証人』です。
まずは下記図でイメージを。
保証人の負う保証債務には下記の3つの代表的な特徴があります。
保証債務の特徴
- 付従性(ふじゅうせい)
- 随伴性(ずいはんせい)
- 補充性(ほじゅうせい)
⇒簡単に言うと、保証債務(保証人の負う債務)は、主たる債務(債務者の負う債務)に付従します。
つまり、主たる債務より重い義務となってはいけないし、主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅するという事です。
⇒例えば、主たる債務が保証人以外の第三者に譲渡された場合を想定しましょう。
この場合、保証債務は、主たる債務とともに移転する事になります。
⇒後述する、催告の抗弁と検索の抗弁をまとめて表現したものです。
上記の、付従性・随伴性・補充性は担保の分野では極めて重要な概念ですから、イメージができるようにしておきましょう。
そして、保証人は、下記のように大きく2つの種類に分かれます。(もちろん他にも存在しますが分かりやすくするため省略)
保証の種類
- (一般)保証人
- 連帯保証人
上記の内、金融系のドラマ等で頻繁に登場しますので、連帯保証人は非常に有名だと思います。
小さい時に父ちゃん母ちゃんに『絶対に連帯保証人にだけはなるな!!』と教えられた人は多いのではないでしょうか?
確かにその通りなのです。
何か特別なことでもない限り、連帯保証人だけはならないのが賢い選択です。
非常に重い負担を伴いますから。
では(一般)保証人と連帯保証人は大きくは何が違うのでしょうか?
イメージしやすく簡単に言ってしまうと。
『(一般)保証人は、債務者からみてあくまで他人』
これに対して。
『連帯保証人は、債務者と同じ立場におかれる』
このような違いがあります。
つまり、連帯保証人は、債務者と同じ立場に置かれますから、債権者は先に債務者に請求せずとも、いきなり連帯保証人に『債務者の債務を履行してね』と請求することができます。
実際にお金を借りた人をすっ飛ばして、他人にいきなり請求できるのです。
これに対して、(一般)保証人の場合は、債権者が債務者に請求せずにいきなり保証人に請求した場合、『いやいや先に債務者に請求してよ。債務者に十分な財産があるでしょ』と拒絶することができます。
この拒絶する権利を、民法では保証人の『催告の抗弁権(さいこくのこうべんけん)』・『検索の抗弁権(けんさくのこうべんけん)』といいます。(補充性)
ワンポイント
抗弁とは訴訟上の概念ですが、簡単に言うと『反論』です。
つまり、催告の抗弁権は、催告をしてくれと反論する権利という感じの意味です。
また、検索の抗弁権は、検索してねと反論する権利を指します。
では、催告・検索が意味不明ですが、どういう意味なのでしょうか?
催告は、簡単に言うと『請求』のニュアンスに近いです。
『ちょっとあんた金払ってよ』と催促する場面をイメージしましょう。
検索は、『まずは債務者の財産を探して差し押さえてね』という感じの意味です。
常識的に考えても、保証人は他人の債務を肩代わりしているのですから、先に本家本元の債務者の財産から差し押さえてねと反論ができると考えるのが素直です。
その当たり前の反論権を難しい言葉で催告の抗弁・検索の抗弁と表現しているだけです。
連帯保証人には、この反論権(催告の抗弁・検索の抗弁)がありません。
だからこそ、連帯保証人は、債務者と立場が同じ重い負担を負うのです。
この違いは、大きな違いなので常識する必要があります。
保証人についての注意点
保証人は、他人の債務を保証する人ですね。
保証人となるためには、債権者と『保証契約』という契約を結ぶ必要があります。
この保証契約について勘違いしやすいポイントがあります。
それは、債権者と保証人が約束する保証契約と債権者と債務者がお金を貸し借りした契約は、まったく別の契約であるということです。
例えば、債権者Aが債務者Bにお金を貸しています。
これは、民法上消費貸借契約(しょうひたいしゃくけいやく)という契約となります。(契約1《主たる債務》)
この消費貸借契約がちゃんと履行されるように、保証人Cが、債権者Aとの間で保証契約と結びました。(契約2)
ここで覚えておかなければならないのは、契約1と契約2は別であるということです。
この基礎知識は、法律系資格試験でもひっかけ問題としてよく登場するものです。
ここはゴチャゴチャにしないように明確に区別しておく必要があります。
●【人的担保含む多数当事者の債権債務関係について一言】
ここでは、人的担保をメインに書いてきましたが、実はここの分野は『多数当事者の債権債務関係』という分野のほんの一部になります。
ただ、この分野はほぼ暗記中心の分野ですので、担保に絞って書いてみました。
◇3)物的担保
とうとう物的担保までやってきました。
あと一息です。
さて、人的担保の代表例が保証人でした。
人的担保は読んで字のごとく、人が債権を担保することでした。
これに対して、物的担保は、物によって債権の履行を確保するやり方です。
例えば、お金を借りた時、もし返せなければ、家を売ってこれを返済するよというような場合です。
物的担保には、下記のような種類の制度が民法上用意されています。
物的担保達の一覧表
- 抵当権(ていとうけん)
- 質権(しちけん)
- 留置権(りゅうちけん)
- 先取特権(さきどりとっけん)
- 譲渡担保(じょうとたんぽ)
⇒最も重要で難しい分野です。
後述で詳しく。
⇒質権と言ってもイメージしにくいかもしれませんが、『質屋』と言えば『あぁあんな感じか』と想像できる人も多いのではないでしょうか。
一定の価値のある物を担保として預かって、これに見合う金銭を貸す時によく用いられる物的担保です。
そう難しくないです。
⇒実は物的担保の中では一番強力です。
おそらく効力は最強の物的担保です。
簡単に言うと、『金払わないなら、預かった物を返さねーぞ』という物的担保です。
⇒あまり試験には出ませんので省略。
⇒これは非典型担保と言われ、民法上規定はありませんが慣習として利用されている担保です。
例えば、AがBに金銭を貸したとします。
これの担保として、Bが自分の車を一度Aに譲渡し、『金を返せば返してね』と約束するような場合です。
たくさんありますが、やはり物的担保は抵当権はメイン中のメインで基本ですので、ここを中心に引き続き書いていきましょう。
始めの段階は、各物的担保のイメージだけもち、抵当権を集中的に勉強して、その他の物的担保の入るのがセオリーです。
◇3)-1 物的担保(抵当権)
抵当権は物的担保の王様
物的担保の王様。
抵当権です。
家を購入したことのある方でしたら、よくご存知でしょう。
住宅購入のため銀行で借り入れ(ローン)をする場合、担保のために抵当権が設定されることが多いです。
他にも、マンション経営を行う場合で、銀行から借り入れを行う場合等は、やはり不動産に抵当権が設定されます。
抵当権は、多くは、不動産にまつわる物的担保で、借り入れが高額になる場合に登場します。
この抵当権のイメージは下記の図で。
抵当権の大きなメリット
この抵当権ですが、非常によく利用される担保です。
というのも抵当権は、債務者にとっても債権者にとっても非常に都合の良い担保だからです。
例えば、質権の場合、担保として質屋に引き渡した物は質屋が持ったままであり、債務者はこれを利用することはできません。
つまり、担保として物(担保の目的物)を引き渡せば、その物は通常利用ができなくなるのです。
バッグや時計を質屋に預けて、お金を借りれば、このバッグや時計は利用できませんよね?
これに対して抵当権の場合は、担保として物を提供しているにもかかわらず、担保の対象となる物(目的物)は通常通り利用することができます。
例えば、上記の図では、家に抵当権を設定していますが、この家は担保として提供しているにもかかわらず普通に利用できます。
これが抵当権の大きな特徴です。
抵当権の効力の及ぶ範囲
そして、一度抵当権を設定すると、この抵当権は、抵当権の対象となる物に関わるものであればほぼあらゆるものに及んでいきます。
これは、いろいろな論点として登場してきますが、『抵当権は結構広範囲に効力が及ぶ』と覚えておくと迷っても大概回答できます。
上記の図をご覧ください。抵当権の対象物として家が登場していますね。
例えば、この家に付随するもの(エアコン等)、これを民法では『従物』と言いますが、もちろんこれにも抵当権の効力は及びます。
他にも、図の家が持ち主によって売却された場合を想定してみてください。
売却すると、当然、家を売った代金が手元に残りますよね?
この代金にも抵当権は及んでいきます。
これを物上代位といいます。
このように、抵当権は基本的には、広範囲に効力を及ぼすものであるとイメージを持っておきましょう。
イメージとしては、上記図の家を風呂敷で包んでグッと掴むような感じです。
抵当権の分野は、難解で多くの判例があるところですが、初めの内は、上記図のイメージをしっかり覚えておくことが肝心です。
●【抵当権VSその他の権利】
民法の物権の所で書いた『177条』の話を思い出しましょう。
そうです、二重譲渡の場合、対抗要件の具備で優劣を決するというあの話です。
上記を書いた時、二重譲渡の話は民法のあらゆる所で登場すると申し上げたと思います。
その一つが、抵当権とその他の権利が競合した場合です。
こ んな時、抵当権かその他の権利かどっちが勝つか、何を基準に決めるの?という問題です。
ここで二重譲渡の考え方を応用することになります。
つまり、177条の対抗要件を先に備えた方が勝つという事です。
(3)まとめ
ふぅ・・・。
この記事も非常に時間がかかってしまいました・・・。
本当はもっと早くUPしたかったのですが、なかなか難しいものです。
ここまででひとまずは、民法のメイン中のメインの話は一段落という事になります。
もちろん、かなりの分量にはなっているものの、これでも、民法の端っこをちょびっとかじった程度です。
それほど民法という法律は奥が深く分量が多い科目です。
でも、すべての法律の基本となる法律なので、やはり手を抜くことはできません。
大変な科目ですが、お互いじっくり頑張りましょう♪
ちなみに、残りの分野では家族法・親族法があります。
法律系資格の中でも資格によっては家族法が非常に重要なものもありますが、家族法は一部重要な論点があるものの、ほぼ暗記がメインの分野になります。
この『1時間シリーズ』は民法編は3つの記事でまとめるつもりでしたが、番外編として+αを書くつもりです。
番外編では、家族・親族法の重要な箇所を軽く書き、これに加えて民法の考え方で役立つポイントをいくつか挙げていくつもりです。
それでは、長らくお付き合い頂きありがとうございました。
民法についての解説記事は、これにて一区切りといたしましょう。