【コラム】『婚外子への相続差別』違憲判決:戦後9例目の法令違憲判決
2013年9月・・・。
最高裁判所から、婚外子の相続分についての違憲判決が出されました。
これは、民法900条4項の話です。
行政書士・公務員・司法系等々、法律系資格試験の勉強をされている方であれば必ず見たことのある条文でしょう。
民法の家族法を勉強する際、たま~に見かける条文です。
まぁ、民法というよりは、特に憲法で大きな論点になっているところです。
今日は、この判決についての、ゆる~い話です。
INDEX
『非嫡出子』とはなんぞや?
マスコミ関連の記事やニュースを読んでいると『婚外子』という文言が用いられています。
この婚外子という言葉、皆様もご存知のとおり、法律用語ではありません。
民法や憲法で問題にあるときには、通常『非嫡出子』といった文言を使います。
これと対になる言葉は『嫡出子』です。
行政書士試験や公務員試験等の資格試験との関係では、この法律用語は常用レベルにしておかなければならないほど有名な法律用語です。
もっとも、どうやらこの『非嫡出子』という言葉の中に『正統でない』といったマイナスの意味が含まれているそうです。
従って、マスコミでは何らかの批判に配慮し、『婚外子』という文言を用いているみたいです。
僕自身も、こういった配慮をしたいところなのですが、そういう言葉の裏側の意味は置いといて、法律用語としては『非嫡出子』という表現が分かりやすいので以後この表現に統一させていただきますね。
では、非嫡出子とはどういった方々なのでしょうか?
●【用語について】非嫡出子とは
念のため少し書いておきましょう。
勉強が進んで、もう常用レベルになっている方はすっ飛ばして問題ありません。
非嫡出子は、民法に登場する法律用語です。
そして、非嫡出子とは簡単に言うと『結婚していない男女の間に生まれた子供』ということになります。
代表的な例としては、不倫相手の間に誕生した子供ということになります。
ただ、勘違いしてはいけないのは、全ての非嫡出子が不倫という関係から誕生したわけではないという点です。
『婚外子相続差別』とはなんぞや?
では、何が問題なのでしょうか?
まずは民法の話からです。
民法はいわゆる『法律婚』つまり一般的な『結婚』を尊重する態度をとっています。
そのため、結婚した男女に生まれた子供というのを原則、結婚していない男女に生まれた子供を例外のような扱いをしています。
特に、今回問題になっている900条4項は、非嫡出子の相続権をあからさまに制限しているため、もう何十年も前から憲法の14条に反するのではないかと議論されていました。
民法900条4項には下記のような記述があります。
つまり、結婚した男女間に生まれた子供の相続分の半分が、結婚してない男女間に生まれた子の相続分であるという事です。
例えば、子供(A)が誕生したものの、何らかの事情で結婚しなかった男女がいたとします。
その後、男性が別の女性と結婚し、その間に子供(B)が誕生しました。
この場合、AとBは同じ男性の子供です。
ですが、男性が亡くなった場合は、相続分はAがBの半分になります。
これを少し難しく言うと、『非嫡出子の相続権を制限している』と言い換えることができます。
●【ポイント】民法は明治時代から内容がほとんど変わっていない
実は、現行の民法は明治時代からほとんど変わっていません。
付け足しや少しの改正はあったものの、抜本的な改正というのは一度としてないそうです。
これを受けて、現状民法大改正の動きがあります。
詳しくは、僕も読みましたが下記の内田先生の新書を読んで頂ければよくわかります。
民法では有名な学者の先生ですが、平易な文章と事例を踏まえた解説で面白いです。
他にもたくさん書籍が出ていますが、この辺がリーズナブルで十分な分量だと思います。
民法が明治時代から変わっていないという事は、その法律を形作った土台となる思想も当時のままということです。
民法900条4項但書の条文も、当時の思想である『家』制度を根強く表した条文であると言えます。
当時、民法は、フランス出身のボアソナードが筆頭にたって立案されたそうですが、この際、ボアソナードは嫡出子・非嫡出子の相続分について同等にするように提案したそうです。
しかし、家制度重視の思想から、現在のような900条4項但書のような条文になったようです。
それでは、話題は変わって、次は憲法の話です。
憲法では、ご存知、法の下の平等という概念があります。
資格試験で勉強をみっちりされている方は、もう聞き飽きる位何度も何度も出てくるあの憲法14条です。
憲法14条では、通説的な見解に基づいて簡単に噛み砕くと『国民は皆、平等だよ』でも『場合によっては合理的区別をすることは許されるよ』と規定しているということになります。
この合理的な区別というのはいわゆる『差別』ではありません。
そして、この合理的区別として、先ほどの民法上の非嫡出子の相続権の制限は許されるのか?ということが長いあいだ議論の対象になってきました。
ここが、今回の話の出発点です。
この話は今始まった議論ではない!!資格試験との関係は?
では資格試験との関係はどうなのでしょうか?
特に行政書士試験と公務員試験との関係で考えてみようと思います。
最高裁判所は、ずっと14条に反しないとの態度でした。
これに対して、弁護士や学者をはじめとする勢力からは『差別として許されない』と主張されてきました。
試験なんかで勉強すると、おそらく後者の見解を『通説』として学ぶと思います。
僕も大学時代、講義でこういった内容を勉強したことを覚えています。
あのころは、『そんなもんなのか~』となんともボケた感じでこの問題を捉えていましたが、よく考えるととても深いです。
資格試験、特に法律系の資格試験では、この話は超メジャーですので今更感がありますが・・・。
これまでと勉強の内容はほとんど変わらないと思います。
今までは、判例の態度と、それに対する通説的な見解をある程度勉強する必要がありました。
今後は、おそらく判例中心に勉強することになるのだと思います。
なんといっても、戦後9例目の『法令』違憲の判例ですから、超重要判例である事は明らかですので。
それほど、法令自体を憲法に反するとする『法令違憲』は珍しいですから。
行政書士試験で言えば、数年以内には一度出題されてもおかしくない判例になると思いますので、試験との関係ではしっかり勉強しておくべき所になるのではないでしょうか。
法律的な問題は大まかにわかったけど・・・世間の意見は?
ここは、資格試験についてのブログですので、少し的はずれな記述かもしれませんが、結構デリケートかつ注目度の高い話題ですので、いろいろまとめてみました。
まとめ方は独断と偏見に基づきますのであしからず。
20103年9月に最高裁判所から違憲判決が出されて、多くの方がネット上では意見を発信しています。
個人的にはいろいろな意見が有り、本当にいろいろな考えがあるな~と今更ながら脱帽です。
僕の小さい頭では処理しきれないほどですが・・・。
代表的な見解を拾ってみました。
●【ポイント】判決に賛成派VS否定派 各意見を箇条書きにしてみた!!
【否定派】
- 結婚を否定することになる
- 嫡出子は家の責務を負うことになるが、非嫡出子がそれを負わずして相続分だけ得るのはかえって不平等
- 伝統・文化を破壊することになるのでは?
- 不倫を助長する
- 正妻が先に亡くなった場合、正妻の財産が夫に行き、その後夫が亡くなればその財産が愛人の子に行くのはありえない
- 合理的なのは分かるが、感情としては納得できない
- 家族に苦痛を与えた不倫当事者の相手方に財産が行くのは容認できない
- 法の下の平等を享受できるのは、法を遵守している者だけでは?(不倫の場合、法を遵守していない)
- 事実婚が増えることになるね
- 子供に罪がないというなら嫡出子にも罪はないはず
- 資産家にアプローチした者勝ちになってしまう。資産家が狙われやすくなる(既婚者にアプローチして金銭を合法的にぶんどることが出来る)
- 日本人の家族観に合わない
- 相続分が同じになったからといって、非嫡出子に対する世間の評価が払拭されるわけではない
- 状況にもよるのではないか?不倫の場合は差をつけて当然
- 正妻の価値が低下し、旧来の一夫多妻のような状況になりかねない
【賛成派】
- 多様な生活形態を容認すべき
- 子供に罪はない
- 非嫡出子と言えば、不倫が全てと考えている人もいるが、不倫でない非嫡出子も多数存在する
- 子供の権利と浮気や不倫は別個に議論すべきこと
- 法の下の平等は貫徹されるべき
- 非嫡出子差別がそのまま結婚制度の維持につながるとは限らない
- 非嫡出子の相続分が2分の1であったとしても、不倫を抑止する動機にはなりえない
- 結局、悪いのはだらしない父親
- グローバルな視点で考えれば、嫡出子と非嫡出子のような区別は日本だけの悪習
- 実質的には金銭問題に過ぎない
- 少子化対策になり得るのでは?
- 法と倫理は別
- 人の心を法律で縛ることはできない
- 不貞行為で避難されるべきは旦那と愛人であり、その子は関係ない
ふぅ・・・。
結構頑張って、いろいろ対立意見を集めてみました。
どうでしょうか?
否定派意見の方は、感情的な見解が多いように思えます。
対して、賛成派意見は、ドライですね。
個人的に思うこと
僕自身は、不倫を毛嫌いしていますから、心情的には大きく否定派の意見に傾向しています。
ただ、確かに、本当に感情・倫理に重きを置くのであれば、家族を苦しめた不倫相手の子に家族で築いた財産を持っていかれるのは悲しすぎて涙が出るとの意見も大いに同意できることです。
感情的には、納得できます。
でも、法制度としてこれに注目するならば、どう考えても今回の判例は妥当すぎると思います。
もちろん、僕自身が、この問題の真っ只中に投げ出されればこんな偽善的な意見は言えるはずもありません。
おそらく感情に任せて行動するでしょう。
しかし、ルールはよりドライに規定されるべきとも考えておりますから、あくまで客観的第三者の視点で書いてみる他ありません。
だからこそ、妥当な判決だと思います。
ドライにドライに数学の計算のように意見を構築すれば、『子供と親は別の個人』であるというところから出発する必要があります。
つまり、不倫をした親とその子は、法律的には別という事。
この場合で、非嫡出子という個人にだけ注目して、それを嫡出子という個人と比較した場合、相続分の2分の1という差というのはどこから出てくるのか?という疑問があります。
感情を全て排除し、感情はひとまず無視して、妥当な理由を考えたのですが、見当たりません。
結婚という法制度の価値が下がる?と言われても、配偶者に遺産を残すとか、夫婦相互扶助等の義務を考えれば結婚の意味はまだまだ無いとは言えないかと思います。
また、不倫を助長するや、資産家が狙われる・法律を破った者勝ちというのは、結局は婚姻関係にある男女がある程度リスクを把握し気をつければ良い話です。
であれば自己責任の範疇ではないでしょうか。
さらに、非嫡出子のへの遺産を残したくないのであればしっかり遺言をしたためておけば良いことだと思います。
もちろん、遺留分等の問題もありますが、相続分を減らすことができるのは確かです。
もっとも、『法を遵守しないものは法の下に平等を享受する資格がない』という意見は頷くところも多いですが・・・しかし、これは不倫関係にあった場合のみに妥当する意見で、それ以外には説得力がありません。
う~ん。妥当なのですよね・・・。今回の判例。
もちろん、感情論であれば、僕もすこしモヤモヤする判例ではありますが。
あと、不倫を助長するとの見解についてですが、これ悪いのは不倫関係の当事者である男女だけです。
ですので、不倫の当事者以外の被害者に賠償させれば一応の金銭的なバランスは取れるのではないかと思うのです。(もちろん例外はある事は承知しております)
今回、実際に裁判をされた非嫡出子側の方は『金銭の問題ではない』とコメントされているようです。
ただ、この問題は金銭の額が主な焦点となっているのは事実です。(もちろん権利の面で考えれば大変な意義のある判例だと思います。)
金銭問題に限って考えるなら、不倫当事者に対する慰謝料額の増額等で補填してやればどうでしょう。
トントンとまではいかないまでも、より感情に即した不倫の落としどころとなるはずです。
確かに不倫をした当事者は苛烈な状態に落とされますが、感情を尊重することはできます。
また、非嫡出子の立場とも全く関係ありません。
上記の、今回の判例の否定派の方々の中にも同様のことをおっしゃっている方もいらっしゃいますから、あながちイレギュラーな意見でもないと思います。
アメリカと違い、日本では懲罰的賠償という概念がありませんから、この際、少しだけ日本も取り入れてみるのも良いかな?なんて思います。(まぁ弊害も多々ありますから安易にとはいきませんが)
不倫に関しては明らかな違法行為ですからね。
今回いろいろ調べてみて思ったのは、いろいろな意見があるな~ということです。
悲しいかな。
結局、相続分が嫡出子と同等になったとしても、世間体の悪さはまず払拭できないと思います。
おそらく、今回の判例で、より一層、非嫡出子の方への風当たりは強まるのではないか?と思います。
今回、いろいろな人の意見を読ませていただき改めてそう思いました。
こういった権利義務に関しての話は、本当に多くの方の感情や利害が関わるため本当に難しいですね。
本当に改めて思いました。