法律系資格:2時間で行政法の入門を確認!!基本中の基本17項
行政書士試験の法律科目の中でも、行政法は少し特殊な科目です。
また、行政法は、行政書士試験の法律科目の中でも、ウエイトが高めの科目で重要です。
そんな重要な行政法ですから、真っ先に勉強される方が多い科目でもあります。
でも、実は、いろいろな理由で、後回しにする方が理解しやすいということをご存知でしょうか?
後回しにする方が、合格点を超えていく実力を効率的につけることができるのが行政法という科目です。
そんな行政法について、この記事では、勉強を始める前にざっと確認しておくとよい基本中の基本とその特徴などを書いてみました。
是非、勉強の初期段階で、何回か繰り返し読んで頂けますと幸いです。
1)行政法の特徴
行政法という法律は『鍋料理』のような法律である
行政法の基本中の基本の話題に入る前に、行政法という法律はどんな法律であるのか?その特徴からザッと勉強していきましょう。
行政書士試験の参考書・問題集は、『行政法』という科目のくくりで、出版されています。
学者の先生が書かれた、基本書と呼ばれる専門書などでも『行政法入門』というように、『行政法』という単位で表現されます。
あたかも、行政法という法律が存在するかのように。
でも、実際には、『行政法』という法律は存在しません。
行政法というのは『行政に関する法律のいろいろ』を便宜的に行政法と呼んでいるにすぎないのです。
つまり、行政に関してのたくさんある法律の寄せ集めが行政法という法律の単位であるということをこの機会に覚えてしまいましょう。
なぜ、このようなことを書いたのでしょうか?
実は、行政法というのは、上で述べたような法律の寄せ集めという特徴があるため、勉強する箇所によって、思考のプロセスがコロコロと変わってしまうのです。
そのため、理解しにくいという特徴があるため、知っておいて欲しかったからです。
事前に『学ぶ場所によって考え方が変わるよ』という特徴を知っておくことによって、理解を早めることができるのです。
具体的に、例を挙げると、上に書いた、総合目次の行政手続という項目と、国家賠償法という項目の考え方は、全く違います。
これが、行政法の特徴の一つ。
行政法を一から勉強するのは無駄なのだ!!
もう一つは、勉強を始めて間もない方にとって、大変嬉しい特徴です。
行政法は、いろいろな法律の寄せ集めということは、前の項で説明しました。
行政法は『いろいろな法律の寄せ集め』であるため、行政法の内容は、他の法律と考え方が共通する部分が多いのです。
そこで、今まで勉強した法律の内容を応用することで理解を早めることのできるという嬉しい特徴があります。
例えば、上で書いた総合目次の国家賠償法の項目は、民法の不法行為とそっくりの考え方です。
他にも、法律による行政や、行政立法・行政行為、さらには損失補償の項目は。憲法の統治機構の考え方や、29条の財産権の考え方とそっくりです。
行政法は、このように他の法律と多くの共通点を持っている法律です。
そのため、行政法は行政書士試験・公務員試験などの多くの法律資格試験でウエイトの高い科目であるにもかかわらず、あえて最後に勉強する方が苦しまずにマスターできる法律と言えるのです。
これが、特徴の2つ目。
行政法はそんな法律なんだということを今のうちに意識しておきましょう。
2)《総論》法律による行政
前置き
行政法がどのような法律なのか?わかっていただけたでしょうか?
特徴を理解頂けれたなら、僕が冒頭で『後回しにした法が良い』と書いた理由がわかっていただけるはずです。
この特徴は、勉強を効率化するうえで大変重要なことですので、是非覚えておきましょう。
それでは、早速本題に入っていきます。
まず、この記事をお読みになっておられる方は、まだ勉強し始めてすぐの方を想定しています。
ですから、ごくごく基本的で重要な部分だけ、書いていくことにします。
法律による行政
法律による行政というのは、簡単に言ってしまえば、行政機関は法律に従って仕事をしないといけないよという原理です。
行政機関というのは、政府ですから、一個人と比べるとその権力は絶大です。
行政機関の権力を自由に拘束なく行使できるとするならば、一個人の命を踏み潰すことなどたやすいのです。
だからこそ、国民が選挙で選んだ国会議員で構成される国会が作った法律に基づいて行政権は行使されなければならないという原理を定めました。
このような原理で行政組織を縛ることで、国民一人一人の自由・権利を守りましょうというのが趣旨です。
政府が国民の命を不ミスブスというイメージ
『え?政府が国民の命を踏み潰すなんてありえねー』
なんて思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、それは今の平和な時代だからです。
今の時代には、あまり想像ができないかもしれません。
政府の権力が、人の命をも奪うことがあるというイメージは、中世ヨーロッパの王政をイメージして頂ければ理解しやすいと思います。
あの時代は、王の権力は絶大で、その国の国民の命は、王の制作のさじ加減でどうにでもなりました。
中世ヨーロッパが舞台となっている映画なんかを見てみると、より深くイメージが持てると思います。
【一服】憲法や行政法の公法を学ぶときは、マンガが意外に勉強になる話
少し脱線しますが、憲法や行政法の公法を勉強する場合に、マンガが役にたったりします。
僕の好きな漫画で申し訳ないですが、『OnePieceワンピース』なんかは意外に勉強になります。
憲法や行政法の公法を一通り勉強した後、ワンピースを読み返してみると、気づきがありますし、上の『権力が命を踏みにじることがある』というのもより具体的にイメージできるようになります。
法律を勉強して読むマンガは一味違った感覚で読めるので、無駄なようですごく勉強になります。
法律による行政は憲法に通じる
法律による行政は、ちょうど憲法の法の支配に通じる考え方です。
ただ、もちろん違いはあります。
法律による行政の原理は、法の支配をごくごく行政機関にだけ求めた原理である点に、憲法の法の支配との違いがあります。
この法律による行政の原理はいくつかの原理に分かれますが、初めは、『へぇ~行政は法律に根拠がないと権力を行使できないんだ~』くらいで十分です。
憲法の法の支配とは
憲法の法の支配はどのような原理でしたでしょうか?
法の支配とは、法律で、権力を縛ることで、国民の自由や権利を守ろうとした原理でした。
3)《行政組織法》行政組織のあれこれ
行政法の中でも、行政の組織に関わる部分は、暗記中心です。
主に、行政の組織の構造について事細かに解説した部分です。
試験で出るかどうかといえば、どちらかと言えばマイナーな分野といえます。
ただ、行政組織の中心部分に関しては、出題されても文句は言えません。
例えば、行政主体や補助機関、上級行政庁と下級行政庁の関係などはよく見かけます。
とはいえ、難しい法律論もなく、問題集を解く問題演習で出たところだけ覚えれば余裕です。
4)《行政作用法》
ここで勉強すること
- ◇行政立法
- ◇行政行為
- ◇行政上の強制措置
- ◇非権力的な行政形式
- ◇行政手続
- ◇情報公開
- ◇個人情報保護
◇行政立法
憲法では法律は国会が作らなければならなかったよね?
これは憲法の統治の分野の国会に関する箇所で勉強することに似ています。
この日本では、法律を作ることができる権限を持っているのは、国会だけと憲法で定められています。
あの三権分立の国会・行政・司法の3つの権力の内の国会だけが、法律を作ることができます。
国会以外の、行政と司法は、憲法に定められたもの以外の法規(規則)を作ることはできません。
これが原則です。
法律の細かい部分まで国会が作らないとダメなら、国が麻痺する
でも、国会って議会ですよね?
あんなにたくさんいる議員がいちいち議論して、法律の細部まで作成しなければならないとすると大変なことになります。
第1条を作るのに議論をして、次に第2条を作るのに議論して・・・・。
国会は議会で、議会はその性質から迅速に動けません。
そんな議会が、法律の細部まで作らないといけないならば、一つの法律を作るのに何十年もかかってしまいます。
これでは、国が機能しなくなってしまいます。
でも、世界はどんどん高速で動いていますし、国内の技術の発展に伴い新たな問題に対処するために迅速に法律は作られる必要がありす。
そんな需要から、憲法で法律を作る権限をもっているのは国会と決められているけれども、この権限をあるていど、行政に委任できないだろうか?という話が出てくるのです。
これが、憲法で学ぶ論点の一つです。
なんで行政に委任すれば大丈夫になるの?
行政権の特徴ってなんでしょう?
憲法をしっかり勉強した人ならすぐに分かることですが、国会と違って、行政は専門的で迅速に動ける機関なのです。
また現場に一番近い存在ですから、市民のニーズを掴む能力も、国会に比べて遥かに優れています。
専門で迅速に動ける行政に、法律の細部の規定の作成を任せる方が、より需要にマッチした法律を早く正確に作ることができるのです。
だから、国会から行政へ委任するという話が出てきます。
現在の、実際の国の運用も、ほとんどの法律は行政機関が作っています。
よくマスコミでも登場する『官僚』が原案を作り、それを議会が議決する形で法律ができていることが多いです。
行政権は専門性を有し、迅速に動ける機関であるという特徴は非常に重要なのでもう覚えてしまいましょう。
国会からの委任
ここまでの話の流れから、『委任ができるんだろうな』という想像はできると思います。
現実的にも行政機関が法律を作る方が多いようです。
では、委任はどの程度までならできるのでしょうか?
つまり、国会の立法権を行政権に丸投げするような委任もできるのでしょうか?
これについて判例は、ダメだよと言っています。
まぁ、そりゃ当然です。
憲法に立法権は国会のものと規定があるのですから、この権力を丸投げするようなことは憲法違反として許されません。
具体的に、どの程度までの委任なら可能かは、判例では、個別・具体的な委任があるならば、行政も法律の細かい部分なら作ってもいいよとされています。
(個別・具体的な委任とは、ある法律の策定を行政に丸投げするのではなく、基本的法律の骨格は国会が作ろうねというイメージです。)
以上のような憲法の議論をベースに、行政法のこの分野では、さらに細かいところに入っていきます。
ただ、上の憲法の話をしっかり理解していれば、あとは暗記と応用で楽勝の分野です。
ここも、ほとんど憲法で学ぶ統治機構の応用でサラっと理解ができるところなので、まずは憲法を完璧にしましょう。
◇行政行為
行政行為ってなに?
ここは、メチャクチャ重要です。
行政行為というのは、行政庁が、行政目的を達するために、法律の根拠に基づいて、国民の法律的な地位を具体的に決定する行為のことを言います。
例えば、空港や学校・道路をつくる場合を想定してみましょう。
この場合、土地が必要になってきますね?
行政は、公共の必要性があれば、上の目的を達成するため一般の国民の土地を強制的に収容することができます。
これが、一般人と一般人の取引であれば、両者の片方が『売るはイヤだ』と言ってしまえば、相手は土地を得ることはできません。
でも、行政の場合は、相手がイヤだと言っても公共目的のために、強制的に土地を得ることができます。
このように、行政は法律の根拠があれば、国民の権利を制限したり、その法律的な地位を一方的に決定する権力を持っています。
そして、このような国民に強制を強いる行為を行政行為といいます。
行政行為の効力
行政行為の効力である『公定力』の重要性
ここも死ぬほど大切です。
行政行為の効力、つまり、行政行為が行われたとき、どんな法律的な効果があるのか?
という話です。
この行政行為の効力には、『公定力(こうていりょく)』『不可争力』『執行力』『不可変更力』の4つがあります。
この中でも、『公定力』は最も重要です。
その他は、あとあと理解できれば十分です。
ですので、ここでは公定力についてみていきましょう。
行政行為は、それをベースに利害関係が積み上がっていく
行政行為というのは、一度この行為が行われると、これを前提としたいろいろな施策が積み上がっていきます。
例えば、空港を作るため一般人の土地を強制的に収容した(行政行為)⇒空港を作るという計画に従って建設業者などと話し合い請負契約⇒着工⇒航空会社と実際の営業。
このように、最初の行政行為を基盤として多くの利害関係人が関わります。
さらに、その規模は国のレベルですから利害関係人の数も、会社法や民法の比にならない規模で、非常に大きなものになります。
ところで、一番最初の土地収用(行政行為)が、違法だったとして簡単にひっくり返っり、無かったことになってしまうとどうなるでしょうか?
大混乱ですよね?(これを法的安定性を欠くといいます)
そこで、公定力という効力が登場します。
行政行為は公定力があるため、簡単に取り消しができない
この公定力は行政法では、『違法な行政行為であっても、取り消し権限ある者によって取り消されるまでは、何人もその効力を否定することができない』と定義されます。
つまり、上の例の最初の土地収用の手続が違法なものであったとしても、取り消されるまでは、そのままずっと有効ということ。
民法では、取り消し得る行為というのは、ただ単に、相手に対して『取り消しますよ』といえばそれでよかったのですが、行政法の取り消しは、そのハードルが非常に高いです。
民法のような意思表示では足りず、行政事件訴訟法に基づいて、取消訴訟という裁判をしなくてはいけません。(もちろん行政が行政自身で取り消すことはできますが、普通そんなことあまりありません)
ご存知、裁判は費用も時間も必要なので、この公定力の効力がいかに強いのかご理解いただけると思います。
つまり、行政法は一度された行政行為が簡単にくつがえされることを嫌うスタンスに立っており、法的安定性を大変重くみているのです。
この感覚は行政法を勉強する上で重要な感覚ですので、今のうちに慣れておきましょう。
ポイントは、一度行政行為が行われてしまうと、その行為をベースに非常にたくさんの利害関係人が関わり、簡単にくつがえされると、社会的に大損害が発生してしまうという視点です。
行政裁量
行政裁量というもの
行政行為の中でも、行政裁量は、『公定力』以上の重要性があります。
ここは、かなり判例も多く、行政書士試験・公務員試験・その他法律系試験においても頻出分野です。
行政裁量というのは、簡単に言うと、行政が何らかの行為をなすに当たって、いろいろな事柄を考慮する幅のことをいいます。
例えば、あなたが美味しい焼肉を食べたいと思った場合、多くの焼肉屋さんがある中でその特徴をいろいろ考えて、最終的に決定しますよね?
この時、何を考慮するか?どのような判断をするか?は決まった答えや基準はありません。
行政裁量も同じです。
行政裁量も限界突破はできない!
もっとも、この裁量には幅があり、その裁量を逸脱したり、濫用したりするとこれは取り消される対象になります。
これは行政事件訴訟法30条で規定されています。
ところが、何が逸脱で、何が濫用か?は不明確で30条からは判断できず、どういう基準で判断するのかは条文からは分かりません。
そのため、この分野は判例の蓄積によって、いろいろな判断方法が提示されています。
判断の方法が錯綜しているとも言えるほど多様ですので、非常に理解しにくい分野になってしまっています。
代表的な判例の判断方法は、1:信義則違反、2:比例原則違反、3:平等原則違反、4:目的違反、5:事実誤認と大きく5つに分けることができます。
そして、上記に加え、より手続的な視点で判断する1:実体的判断課程統制審査、2:手続的司法審査に分類されます。
上記合計7項目にそれぞれ判例の基準が存在し、その都度、その判例が上記のどの判断方法に当たるのか意識して覚えるようにしなければなりません。
そうでなければ、ごちゃごちゃになってしまいますので、注意が必要です。
初めの内は、上のような判断の方法があるという点のみ覚えておきましょう。
そして、判例が上の7項目のどれに位置するのか意識しなければならないこと。
これだけでずいぶん勉強が楽になります。
具体的な判例の基準は、また勉強が進んでからでも遅くありません。
とにかく、上のような分類があり、そのどこにどのような判例の基準が収まるのかを意識するということを覚えておきましょう。
行政行為の瑕疵
行政行為に問題があっても、取り消されるまで有効なのは、問題の程度が低いから
ここの話は、公定力に関わってきます。
公定力は、取り消し権限ある者によって取り消されるまでは、何人も行政行為の効力を否定できないという効力でした。
簡単にいうと、取り消しにくいんだなというイメージでいいです。
公定力が及ぶ限りたとえ行政行為に何らかの問題(瑕疵)があったとしても、取り消さなきゃ有効なのです。
なぜ、行政行為に問題があるのにもかかわらず、有効としてても大丈夫なのでしょうか?
それは、公定力の及ぶ行政行為の問題(瑕疵)の程度が低いからです。
行政行為の瑕疵が大して重大でないから、取り消されるまで有効にしてても大丈夫だろうと考えられているのです。
言い換えれば、その瑕疵の程度が低く、行政行為の違法性の程度が、たいして重大でないということ。
行政行為の問題(瑕疵)が重大になれば、公定力は働かない
でも、この行政行為の瑕疵が重大で大きなものになってしまった場合は、取り消し得る行為ではなく『無効』となります。
民法で勉強することになりますが、取り消し得る行為は、取り消すまでは有効ですが、無効はその瞬間効力が否定されます。
つまり、行政行為も瑕疵の程度が甚だしく重大になれば、公定力の働かず、無効になる場合があるということです。
行政行為が『無効』と判断される判断基準
では、無効となる場合はどのような場合でしょうか?
判例は、瑕疵の程度が重大で、明白である場合としています。
現段階では、この基準をそのまま覚えましょう。
◇行政上の強制措置
簡単にいうと、民法の強制措置の行政Verです。
行政行為や、法律によって国民に義務が課されているようなとき、この義務を国民に強制できなければ、円滑に行政運営を図ることができません。
ですので、行政法では、行政が国民に課した義務をちゃんと実現させる手続きを定めています。
強制措置の方法は、たくさん種類がありますが、ここは民法の強制措置と比較対照し覚えましょう。
そうすると、非常にスッキリ覚えることができますのでお勧めです。
あとは、基本的には暗記中心の分野となり、そう難しい法律論もありませんので、得点源にできます。
◇非権力的な行政形式
行政計画
行政計画とはなんぞや?
行政計画とは、行政権が提示する具体的な目標と、これを実現するための方法を総合的に提示したものをいいます。
簡単にいうと、行政機関が、今後こういう計画で行政運営をしますよ~と一般に公開する計画のことです。
このような計画が一般に公開されることによって、企業や一般人が、その計画を前提にいろいろな経済活動をおこなうことができるようになります。
計画があるていど定まっているので、事業計画が立てやすくなり、地域の活性化を図る効果があります。
行政計画に処分性はあるの?
この行政計画で問題となるテーマの一つとして、『行政計画は行政事件訴訟法上の取消訴訟の訴訟要件である「処分性」があるか』という点です。
取消訴訟の処分性の話は、行政法で最も重要な話です。
処分性の話は重要なので、後ほどしっかり記述しますがここではザッと説明しながら書き進めます。
処分性とは、行政行為の取り消しを求める裁判をするための、一つの条件と覚えて頂ければ十分です。
つまり、行政機関がした行政行為に処分性が認められると、例えば、行政行為を取り消す裁判を起こすことができます。
では、この処分性というのはどのような場合に認められるのでしょうか?
ごくごくざっくりいうと、国民の権利を制限するような場合にこの処分性が認められることが多いです。
ここで、行政計画はどのような行為でしたか?
ここの項目のタイトルにもなっているように、『非権力的な』行政行為でした。
権力的ではない行政行為なのですから、国民の権利を制限しない行政行為ということになります。
国民の権利を制限しないのであれば、これすなわち、処分性がないのが原則なのです。
行政計画に『処分性』が認められる例外的な場合
行政計画に『処分性』が認められる例外的な場合について。
例えば、行政機関が、策定した行政計画に基づいて、一般人の所有地の収容が余儀なくされてしまうような場合はどうでしょうか?
このような場合は、国民の権利を制限しているということができますから、判例は、行政計画に処分性を認めています。
行政計画が変更された場合の賠償について
行政計画にも例外的に『処分性』が認められる場合がありました。
では、行政計画が一方的に変更され、これで損害を被った人がいた場合、その人は行政に対して損害賠償を請求できるのでしょうか?
これがもう一つの問題です。
取消訴訟などの訴訟が出来るかという問題とは違って、ここは国家賠償法上の『違法』に当たるかどうかの話です。
だから、取消でなく、損害賠償請求ができるかどうか?の話に切り替わっているのですね。
では、なぜこれが論点となるのでしょうか?
行政計画は、あくまで『こういう予定だよ』と行政がざっくり計画を公開しているものでしたね?
であるならば、原則として、いくら計画を変更しようとも、自由です。
たとえ、これによって一般人が損害を被ったとしても、それは、その人の判断ミス以外の何ものでもありません。
行政計画に基づいて、行政が積極的に私人を誘致していた場合
でも、例えば、行政計画に基づいて行政が、一般企業を積極的に誘致していたような場合はどうでしょうか?
行政が何度も一般企業と打ち合わせを行い、行政計画がそのまま進むことを前提として一般企業が事業計画を練っていたような場合などです。
その後、市長が変わったなどの理由で、一方的にこの計画を変更することを良しとするのはあまりにも誠実性を欠くと思いませんか?
ですのでこのような状況がある場合、一定の要件を満たせば、一般企業が行政に対して行政計画の変更に伴って被った損害賠償請求をすることも、判例は認めています。
ここは、非常に難解ですが、普通に考えれば、あまりにも行政が勝手すぎる話ですので、ごく常識的な視点で、判例を読めば、納得できるはずです。
この2つの問題は、恐ろしいほど重要で、死んでも忘れてはいけないテーマです。
行政書士試験でも、よく出る判例ですすので、覚えておきましょう。
ポイントは、行政計画という、国民の権利を制限しないような行政計画でも、一定の場合には、取消訴訟の対象になったり、賠償を請求されるような場合があるというところです。
行政指導
行政指導というもの
行政計画も重要でしたが、まだそれよりも重要です.
行政計画のところで軽く解説した取消訴訟の処分性と、行政指導とのからみは死ぬほど出題されます。
行政法を勉強した人で、ここを勉強したことがないとか、説明できないとか言う人は、もぐり決定です。
ここで出てくる判例は、事例を読めばどのような判例だったか、パッと浮かぶようにならないとダメです。
それほど重要。
特に、行政指導が、取消訴訟における処分性ありと判例が判断した事例は頻出も頻出です。
ここで、行政指導とは、一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導・勧告・助言、その他の行為であって、『処分に』該当しないものをいいます。
つまり、国民に、行政上の義務などを、強制するのではなく、話し合いや助言によって、国民の協力を求める形で、行政目的を実現していく方法です。
何でもかんでも、強制させればいいというものではなく、じっくり時間をとって、話し合いによって解決を図る平和的な行政行為なのです。
行政指導と『処分性』
行政指導は、強制力を伴いませんので、原則として『処分性』は否定されます。
これは、先の行政指導の定義からしても明白です。
だって、『処分に該当しないもの』が行政指導なのですから。
でも、行政指導にも一定の場合には、例外が存在します。
この、例外である、行政指導に取消訴訟上の処分性が認められる場合が、非常に重要です。
いくつか判例があるのですが、2パターン覚えていると理解が楽です。
一つは、行政指導に従わないと行政指導をされている人が明確に意思を表示をしたときは、行政指導を継続して不利益な取扱いをすることはダメだよということ。
もう一つは、行政指導に従わないことで、これに続く行政の対応によって、国民が、権利を制限されるような場合です。
こういう場合には、総合的に考えて行政指導に処分性を認めていきます。
この2点のパターンを覚えておくと、判例を読みやすくなります。
2つ目は、抽象的になっていますから、わかりにくいかもしれませんが、具体例を次項で見ていきましょう。
行政指導に処分性が認められる代表的な例
2つ目のパターンの代表的な判例としては次のようなものがあります。
ある病院が、病院の開設許可を行政に求めましたが、行政はある理由で、開設を中止するよう勧告(行政指導)をしました。
これに対して、この勧告の取り消しを求めて、病院側が裁判を起こしました。
勧告は行政指導に当たります。(もう一度、先に書いた行政指導の定義を見てみしょう)
ですから、原則、取消訴訟の処分性は認められません。
さらに、行政指導には強制力がありませんから、従わなくても病院の開設はやろうと思えば可能です。
『そのまま開設すりゃいいじゃん』と思いますよね?
なぜ、この病院は行政を訴えたのでしょうか?
それは、この行政指導に従わない場合、ほぼ確実に、保険医療機関の指定を受けることができないという状況があったからです。
ここで少し考えてみましょう。
つまり、病院が保険医療機関の指定を受けることができないということは、行政指導を無視して、病院を開設したとしても、その病院では、『保健証』が使えないということになります。
病院で保険証が使えないということは、患者は医療費満額負担になるということです。
これ、医療費3割負担が一般的な日本では、病院経営を行う上で、致命的ですよね?
一般的な日本人なら、医療費の満額負担を強いられる病院には行かないはずです。
例えば、行政指導に従わず、病院開設をしたとしても、おそらくすぐ経営は立ちいかなくなるはずです。
これは、病院の権利を遠まわしであれ、制限していると言えないでしょうか?
判例も、このような実情を考慮して、この場合の勧告(行政指導)に処分性を認め取り消しを認めています。
以上が、行政指導の重要ポイントですが、ここでのポイントは、総合的に考えて、行政指導が国民の権利を制限する場合には、行政指導にも処分性が認められる場合がありうるという点です。
今のうちに、ざっくりイメージを持っておきましょう。
行政契約
ここはそう重要ではありません。
行政契約とは、行政目的を達成する手段として、締結する契約をいいます。
基本的には、民法の契約とよく似ていますが、やはり行政は国ですから、不正に配慮するため完全に自由というわけではありません。
この点のみ、覚えておきましょう。
現段階では十分です。
◇行政手続
ここも重要ですが、基本的には条文の暗記が中心です。
行政手続は、主に、行政手続法の条文を勉強することが中心となるのですが、ここは難しい法律論はほぼ登場しません。
先の行政指導と処分性のところと比べると、明らかに平易です。
ただ、ある程度メリハリをつけて、暗記を徹底する必要がるので、暗記が面倒な方には、しんどいかもしれません。
行政手続法は、大きく下記のようなパートに分かれます。
●【行政手続法のパート】
- 1)定義と適用除外
- 2)申請に対する処分
- 3)不利益処分
- 4)行政指導
- 5)届出
- 6)意見公募手続
以上の6つです。
行政手続法を学ぶ上で、最も大切な視点は、上の6つのパートをちゃんと区別することです。
つまり、定義をしっかり覚えて、行政の対応が、行政指導なのか?申請に対する応答なのか?もしくは不利益処分なのか?
まずは、ここをしっかり区別することが最重要です。
この区別ができないと、続く手続きで、どのような手続きが要求されるのかごっちゃになってしまいます。
特に、申請に対する処分なのか?不利益処分なのか?ここの区別で、手続きが全く違います。
まずは、この点をはっきりさせることを意識しましょう。
申請とは、法令に基づき、許可・認可・免許、その他自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって、当該行為に対して、行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいうと定義されていす。
不利益処分とは、行政庁が、法令に基づき特定の者を名宛人(宛先もたいなイメージ)として直接にこれに義務を課し又はその権利を制限する処分をいうと定義されています。
そして、申請に対する処分は、不利益処分から除かれます。
この2つは、どちらに当たるかによってその後、遵守すべき手続きが全然変わってきます。
行政手続の分野の話は、行政が採った行為が、行政手続上のどの行為に当たるのか?これを特定する意識が非常に重要になります。
ですので、今のうちにこの感覚を常識にしましょう。
◇情報公開
ここは基本的に暗記の分野です。
条文を中心にガンガン暗記していきます。
基本的には、国民の知る権利に奉仕する趣旨で規定された法律です。
ただし、1条の目的の条文に『知る権利』という文言は出てきません。
法律を作る段階で、敢えて知る権利の明記は避けられたそうです。(実はこれよく出題されます)
どういう場合に、情報が公開され、どういう場合は公開できないか?
ここだけ注意して暗記しましょう。
特に難しいところはありません。暗記勝負です。
◇個人情報保護
数年前、個人情報保護法の施行がブームになったことをよく覚えています。
あの法律は、一般人(私人)の分野に適用される法律でしたが、行政法における個人情報保護法は、行政機関が把握する個人の情報についての法律です。
行政法が保有している、個人情報の扱いをどうするか?
そういう法律です。
行政機関個人情報保護法と言いますが、ここは情報公開法と重複するところが非常に多く、ほとんど情報公開法そのままです。
微妙に違うところだけ、集中的に暗記すれば、試験に出題されて困ることはありません。
行政書士試験においては、この辺りは一般教養で出題される分野でもあるので、ガッツリ暗記することによって一般教養対策にもなり得ます。
5)《行政救済法》
◇行政上の不服申し立て
行政不服審査法の不服申し立てについて
行政上の不服申し立てというと、主に『行政不服審査法』に規定されていることを指します。
行政上の不服申し立てとは、行政庁の処分そのた公権力の行使にあたる行為に関して不服のある者が行政機関に対して不服を申し立て、その違法・不当を審査させ、違法・不当な行為の是正や排除を請求する手続きをいいます。
つまり、ある行政による処分がされた場合、それが気に入らない人が、行政にクレームをいれるイメージです。
この行政不服審査法における行政上の不服申し立ての特徴は、行政がした処分について、『行政機関』に不服を申し立てる手続きであるということ。
その点で、『裁判所』に対して、行政のした行為の不服を申し立てる行政事件訴訟法とは大きく違います。
この行政上の不服申し立ては、行政機関に対して不服を申し立てるのですから、迅速な判断を得ることができる点がメリットです。
他にも、裁判所と違って、行政機関は、いろいろな分野に精通している専門機関ですので、より専門的な判断を得ることができます。
(憲法で勉強するように、裁判所は法律のプロですが、それ以外は素人です)
デメリットは、行政機関がした行為を、その当事者である行政機関が裁定するので、『公平』を欠くこと。
そんな特徴があります。
行政不服審査法上の不服申し立ての種類
行政上の不服申し立ては、次の3つの種類があります。
●【行政上の不服申し立ての種類】
- 1)異議申し立て
- 2)審査請求
- 3)再審査請求
それぞれ、申し立てをする先の行政機関が異なります。
異議申し立ては、1:上級庁がない場合、2:処分をした行政庁が、庁の長である場合、3:法律により異議申し立てによることが指定されている場合には異議申し立てによらなければいけません。
まぁ、法律で指定されているか、処分した行政庁が、長(人)であれば異議申し立てと覚えれば、ほとんどの問題は解けます。
審査請求は、処分をした行政庁の上級庁に行います。
ここで、意義申し立ての1:をご覧ください。
審査請求ができる時は、異議申し立てはできないということ。
これで覚えるとスッキリしますが、正確には条文で確認しましょう。
基本的には、異議申し立てができる場合は、審査請求より先に異議申し立てによらなければならないとされています。
これは今のうちに覚えてしまいましょう。(意義申立前置主義)
再審査請求は、審査請求の2回目の判断を求めるものです。
初めの内はこの程度で十分です。
ちなみに、他にも、不作為に対する不服申し立てというのが存在します。
これは、不作為でないものが意義申立てを審査請求より前にしなければならないのに対して、不作為は、どちらでも自由に不服申し立てを行うことができます。(自由選択主義)
この違いは今のうちに覚えておきましょう。
後々ごっちゃになる可能性がありますので。
◇行政事件訴訟法
行政事件訴訟法ってどんな法律?
行政法の中でも、特に難しく判例もたくさん覚えなければならないのが、この分野です。
行政法はいろいろな法律がごっちゃに合わさった法律を便宜的に行政法と呼んでいるという話を冒頭でしました。
この行政事件訴訟法という法律も、いろいろある行政に関しての法律の一つです。
ではこの行政事件訴訟法とはどんな法律なのでしょうか?
簡単にいうと、行政機関が行った行為について、国民に不服がある場合、『裁判所』に対して『行政の行為を何とかしてくれ』と申し立てる手続きを規定しています。
また、裁判所への申し立て後は、裁判のあり方についても規定しています。(ざっくりとしたイメージこんな感じ)
つまり、民事訴訟法と同様、裁判の手続を規定した法律ということです。
裁判をするためには、どんな手続きが必要なのか?それを規定しているのです。
ところで、不服を申し立てる法律なら他にも行政不服審査法という法律がありました。
この行政不服審査法と、行政事件訴訟法は何が違うのでしょうか?
行政不服審査法は、行政がした行為の不服を『行政庁』に申し立てるときに使う法律でした。
これに対して、上に書いたように、行政事件訴訟法は、不服申し立ての先が『裁判所』です。
つまり、判断を下す国の機関が違うということです。
ここを前提としてしっかり区別しましょう。(2度目ですが、重要なので念のため)
あまりにもざっくり勉強すると、同じような話が出てきてごちゃごちゃになってしまいますので。
行政事件訴訟法にはどんな種類の訴訟があるの?
この行政事件訴訟法では、いくつかの訴訟の種類が規定されています。
行政事件訴訟法の訴訟の種類
- 1)取消の訴え
- 2)無効確認の訴え
- 3)不作為違法確認の訴え
- 4)義務付けの訴え
- 5)差止めの訴え
- 6)当事者訴訟
- 7)客観訴訟
1)~5)までは、まとめて抗告訴訟(こうこくそしょう)と呼ばれます。
テキストを読むとき、抗告訴訟というとこの5種類を一括して指し、取消訴訟というと、取消の訴えだけを指します。
この用語の区別は厳密なので、覚えてしまいましょう。
6)の当事者訴訟は大きく、『形式的当事者訴訟』と『実質的当事者訴訟』に分かれます。
形式的当事者訴訟とは、ざっくりいうと、法律で誰が誰に対して訴訟を起こさなければならないかが定められている訴訟です。
法律に、トラブルになって訴訟をやるならば、この人に対して訴訟をしなさいと書いてあるような訴訟が形式的当事者訴訟です。
これに対して、実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係が問題となった時の訴訟です。
例えば、よく具体例としてあげられるのは、公務員が免職処分を受けた場合に、その無効を前提とする退職金支払い請求訴訟などです。
最後の7)の客観訴訟も、『民衆訴訟』と『機関訴訟』に分かれます。
両者は、国や地方公共団体の行為の是正を求めて、国民が起こす訴訟の事をいい、個人的な利益の回復を目的とする訴訟ではなく、公益が一番の目的となる訴訟です。
憲法で、衆議院議員選挙の無効を求めてなされる訴訟などは、民衆訴訟の典型です。
当事者訴訟と、客観訴訟の重要度は低く、どちらも条文と典型的な具体例だけ覚えれば楽勝です。
行政事件訴訟法のメインはやはり、抗告訴訟、中でも、1)~3)が特に重要で、その中でも1)の取消の訴えの重要度は突出しています。
そのため、以降は主に1)について書いていきます。
取消の訴えの重要なところ
取消訴訟の訴訟要件が難しい理由
この行政事件訴訟法で大切なのは、条文の知識はもちろんですが、特に取消の訴え(以下:取消訴訟)訴訟要件の話が難解で、判例も多く、本当に大切です。
取消訴訟とは、行政が行った行為(処分)を、国民が不服だ!といって取り消して!と裁判所に判断を求める訴訟です。
訴訟要件とは、簡単にいうと、『裁判をする価値があるか?裁判所が判断するにふさわしい事件と言えるかどうかの条件』達のことを指します。
訴訟要件は、民事訴訟法を勉強しているとよく理解できるのですが、行政書士試験では、民事訴訟法は出題範囲ではありません。
ですから、余計に分かりにくくなっています。
だって、何の素養もない状態で、いきなり、裁判についての手続の法律を勉強することになるのですから・・・。
順番としては、民事訴訟法や刑事訴訟法で、裁判の手続きに関する基本を勉強してから勉強するもです。
これをやっていない場合チンプンカンプンになってもしょうがなく、わかりにくのはし仕方がありません。
取消訴訟の訴訟要件について
取消訴訟の訴訟要件は下記の7つに分かれます。
●【取消訴訟の訴訟要件】
- 処分性
- 原告適格(げんこくてきかく)
- 狭義の訴えの利益
- 被告適格(ひこくてきかく)
- 管轄裁判所
- 審査請求の前置
- 出訴期間(しゅっそきかん)
特に重要なのは、処分性と原告適格で、次に重要なのが狭義の訴えの利益です。
狭義の訴えの利益は、それほど難しくなく、理解も簡単です。
ですので、ここでは、『処分性』と難解な『原告適格』について主に書いていくことにしましょう。
その他の訴訟要件は、読めば分かるものやほとんど出題を目にしないものが多いので重要度は下がります。
●訴訟要件とその理解のコツ
訴訟要件は、民事訴訟法などの、手続法などで出てくる法律用語です。
上でも書きましたが、訴訟要件とは、裁判所がその判断を下すのにふさわしい事件かどうかを判断するための条件です。
例えば、交通事故があり、被害者が加害者に対して民法709条に基づく損害賠償請求を求める訴訟を裁判所に提起したとします。
この場合、1:この請求権が存在するかどうかという判断と、それとは別の、2:その訴訟は裁判するにふさわしいかどうか?ということも同時に並行して判断されています。
少し難しい話ですが、2:についての判断が訴訟要件についての判断です。
この訴訟要件は、訴訟が提起された裁判の始めの方で全部判断されるのではなく、裁判中ずっと並行して検討されます。
つまり、裁判が終わるまでに訴訟要件が満たされていれば、問題なく訴訟を継続することができます。
では、この訴訟要件はなぜ求められるのでしょうか?
それは、裁判にはお金がかかるからです。
裁判をする意味のない訴訟まで、全部、裁判所が検討しなければならないというのであれば、もうお金がかかってしょうがありません。
裁判には莫大な費用がかかりますから、経済面での配慮は重要事項なのです。
国民の税金を利用して行われる裁判は、できるだけ費用を節約すべきなのです。
だからこそ、訴訟要件という条件が求められます。
これらは、民事訴訟法で勉強する知識です。
でも、実はこれらの知識を理解していない場合、行政事件訴訟法の訴訟要件の話が一体何の話なのか?理解を非常に困難にします。
処分性の定義
処分性については、この記事でも行政指導のところで少し書かせてもらいました。
行政事件訴訟法では、取消訴訟は処分その他公権力に当たる行為の取消を求める訴訟とされており、この処分というのが何を指すのかは書かれておりません。
そこで、判例は下記のように処分というものが何か、処分性を定義づけています。
処分とは、公権力の主体たる国または地方公共団体の行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいいます。
結局、この処分性の話は、訴訟要件の話ですから、行政のした行為が、取消を求めるに値する行為なのか?その定義が問題になっているのです。
法律に明確に規定されていないということは、何が処分かわかりませんからね。
これは判例の定義で、少し長いですが、行政書士試験に絶対合格するレベルなら、何も見ず言える人も多いと思います。
それほど、大切な定義です。
処分性のところで大切なのは、処分性かどうかの判断だ!
ざっくりいうと、この処分の定義に当たるかどうか?この認定が処分性のところで一番大切な話ということになります。
判例がどういう認定をして処分性を判断しているのか?をしっかり勉強することになります。
ポイントは、『国または地方公共団体の行為』『直接』『国民の権利義務を制限』この3つです。
最後の法律上~というところは、この記事の初めの方でも書いた通り、法律による行政の原則から当たり前のことですので、すぐ覚えることができます。
逆に、上の3つのポイントの中でも、『直接』というのは忘れがちですので、落とさないようにしましょう。
つまり、国の行為で、国民の権利義務が制限されていたとしても、それが、行政行為から直接に被った不利益でない場合は、処分性はないということになるのです。
これは原則で基本です。
試験では、問題の事例を読んで、処分性が認められるかどうかを、判例の定義で判断することが求められます。
判例は処分性の定義から外れる事案についても処分性を認めているからややこしい
ただ、処分性が難しいのは、この定義から外れてしまうような場合。
行政行為が強制力を持っていて、もうバッチリ!ド直球で定義にあてはまるならば、何の問題もありません。
でも、例えば、行政指導などのは、別に国民の権利義務を制限する行政行為ではありませんので、判例の定義では、処分性を否定するのが原則です。
ですが、判例はいくつかの事案で、この定義から外れていると思える行政指導でも、処分性を肯定しています。
それは、この記事の行政指導のところでも書いたように、行政指導に従わないことで、その後続く取り扱いによっては、国民の権利義務を制限してしまうような場合です。
厳密には、上の一言で説明することは難しすぎますので、あくまでこういうニュアンスで、判例は、行政指導などでも処分性を肯定する傾向にあるという話です。
今はこれだけ覚えておきましょう。
取消訴訟の処分性は、事案によって結論が変わるので、テキストの判例を読んで、スパッと理解できないところです。
混乱しがちなところなので非常に難しいです。
これを克服するためには、判例を比較して、どのような流れで結論を導いているか?を勉強します。
そしてその結論に至るためにどのような現実の運用を考慮しているのか?ここも合わせて読み込む他ありません。
原告適格について
ここも非常に難しく、判例を比較検討しても、何を言っているのか意味がわからないことが多いところです。
行政事件訴訟法の訴訟要件の中でも、かなり難解で、判例を読んでも何でAとBで結論が違うのかよく分からないことも少なくありません。
僕自身も、かなり突っ込んで勉強して初めて『あぁそういうことだったのか』と理解できたことも多く、ちゃんと理解するためには、相当判例と条文を読み込む必要があります。
ここで、原告適格とは、なにを意味するのでしょうか?
簡単にいうと、訴訟を提起する人が、その訴訟を提起する資格があるのか?という話です。
行政事件訴訟法9条では、1項で原告適格のある人を『法律上の利益を有する者』と規定しています。
では、法律上の利益を有する者とは、どんな人になるのでしょうか?
この言葉は抽象的すぎて、誰を指すのか分かりません。
そこで、判例は、この法律上の利益を有する者を下記のように定義しています。
(ある人に行政処分がなされたことを前提として)
当該処分により事故の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害される恐れのある者
ここで問題になるのが、この定義にある法律上保護された利益には、訴訟を提起した人の、ごくごく個人的な利益まで含まれるのか?そしてそれはどうやって判断するのか?という点です。
判例は、上の定義に続く判断で、次のように判断しています。
当該行政処分を定めた行政法規が不特定多数の具体的利益をもっぱら一般公益の中に吸収解消するにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たる。
これを一読して本当に理解できる人は天才です。
僕なんて、何言ってるかわかりませんでした。
簡単に言うと、結局、処分の根拠となった法律が、個人的な利益を保護する趣旨ならば、原告適格は認められるよということを言っています。
例えば、建築基準法に基づいて、総合設計許可という処分がなされたとします。
この場合、建築基準法が、処分の根拠となった法律に当たります。
であれば、この建築基準法が、個人の個別的利益を保護しているかどうか?を検討することになります。
この個人的利益として認められる場合は、生命・身体の侵害が想定されるような場合がほとんどです。
問題文に、『生命・身体の安全』なんて出てくれば、ほぼ原告適格は認められます。
どの処分の根拠となった法律が、個人の個別的利益を保護した法律であるかは、判例に出てくる法律の大まかな名前を覚えればOkです。
例えば、建築基準法や都市計画法、原子炉等規制法などが代表的です。
対して、個人の個別的利益を保護していないものとしては、風営法が代表的です。
次のテーマは、その処分の対象となった人ではなく、それ以外の第三者にもこの原告適格が認められるのか?という点です。
原稿適格が問題になるのは、処分の対象者以外の人が訴訟を提起する場合がほとんどです。
早速ですが、例えば、自分の住んでいる地域に、原子力発電所の建設許可が下りたとしましょう。
このような場合、建設許可をとった業者は、問題なく原告適格があることになります。
では、この地域に住んでいるこの業者以外の周辺住民などにも、原告適格ありとして良いのか?その判断基準はどうするの?という問題があるのです。
これについては、どういうことを考慮して判断すればよいのかについて、行政事件訴訟法9条2項に規定されています。
行政事件訴訟法9条2項では、『法律上の利益を有する者』を判断するにあたって、行政が下した処分の根拠となった法律の目的や趣旨、そして、この処分で考慮されるべき利益の内容や性質を参考にしましょうとしています。
そして、目的や趣旨を考慮する場合には、処分の根拠となった法律だけでなくて、それと目的を共通にする『関連法』の目的や趣旨を合わせて検討しましょうとしています。
さらに、利益や内容を考慮する場合には、当該処分が、処分の根拠となった法律に違反してなされた場合の弊害等も検討しましょうと規定しています。
かなりややこしいですが、ざっくりでよいので、イメージをできれば問題ありません。
実は、この9条2項は、判例を受けて2004年に改正された規定です。
ここで重要なのが、目的と趣旨を考慮する時、処分の根拠となった法律だけでなくて、関連法も考慮しましょうという点です。
これは非常によく使います。
以上のようなことを考慮して、処分を受けた対象者以外の人にも原告適格が求められるかどうか?を判断しましょうと規定されています。
かなり、難しいと思います。
ここは、僕の個人的な感想ですが、行政法で一番難しく理解しにくい分野であると考えています。
僕も何度勉強しても難しいと思います。
◇国家賠償法
さぁ、行政法の話もあと少しになってきました。
国家賠償法という法律は、憲法でよく登場する法律です。
憲法の統治の分野で、立法不作為が違法であるかどうか?という論点がありましたが、この『違法』というのは国家賠償法の要件を検討しています。
憲法で違法であるかどうかが問題になるような場合は、大抵、国家賠償法を根拠に、国に対して請求をしている事例です。
ですので、憲法を勉強した方であれば、聞いたことのある法律だと思います。
国家賠償法という法律
そんな国家賠償法も、行政法の一員です。
国家賠償法は、その考え方が、民法の不法行為の分野と非常に似ているため、民法の不法行為をやったあとで取り組むとすんなり理解できるでしょう。
話の構造としては、民法の使用者責任とほぼ同じです。
使用者責任は、例えば、会社の従業員が仕事中、第三者に損害を被らせてしまったような場合、一定の要件が満たされれば、従業員を雇っている会社も責任を負わされるという責任です。
同様に、国家賠償法は、公務員がした行為がもとで、第三者が損害を被った場合、この第三者はその損害を国に請求できるということを定めています。
ところで、国家賠償法と使用者責任は大きくどういう点が違うでしょうか?
使用者責任の場合は、損害を被った人は、その加害者本人である従業員にも一般不法行為責任を追求することができます。
つまり、被害者は、民法709条の一般不法行為責任を従業員に請求でき、その上、会社にも使用者責任を追求することができます。
ですので、加害者本人である従業員もまた責任を負うことになります。(まぁ当たり前でしょう)
でも、国家賠償法は、使用者責任と同じような構造であるにもかかわらず、加害者である公務員個人は、原則として責任を負うことはありません。
公務員が加害者になった場合は、原則国がその責任を肩代わりしようというのが国家賠償法です。
そのため、例えば、問題に『被害者は公務員のした行為で損害が生じた場合、国家賠償法第1条に基づいて、公務員個人に責任を追求することができる』とあれば、これは間違い(×)ということです。
どうして、このような公務員の個人責任を否定しているか?というと、公務員が萎縮することなく仕事ができるようにというのが趣旨だそうです。
円滑な行政運営のためには、公務員の活動はある程度保護されるべきということでしょう。
国家賠償法の要件
国家賠償法は、民法の不法行為と同じような考え方をします。
つまり、要件の検討が、非常に重要であるということです。
要件は下記の通りで、1条請求と2条請求で違います。
国家賠償法1条の要件
- 国または地方公共団体の公務員が
- 公権力の行使にあたり
- 職務を行うについて
- 故意または過失により
- 違法に
- 他人に損害を加え
- 加害行為と損害との間に因果関係があること
国家賠償法2条の要件
- 公の営造物
- 設置または管理に瑕疵
- 因果関係
- 他人に損害を生じた
この要件は、基本中の基本で、何も見ずに言えるようになる必要があります。
そして、どういう場合がこの要件に該当するのか?その基準や、定義を判例が示していますので、それも覚える必要があります。
例えば、1条の『公権力の行使』とは、国または地方公共団体の作用のうち、純粋な私経済作用と国家賠償法2条の営造物の設置管理作用を除いた一切の作用をいいます。
これいろいろと難しいことを言っていますが、簡単な話、国と地方公共団体の行為であればほとんどがこれに該当しますよと言ってます。
公務員試験(論文式の課されるもの除く)や行政書士試験であれば、このような定義を、一言一句言えるようになる必要はありません。
ただ、これらの定義が示す意味は正確に理解する必要はあります。
国家賠償法の要件を覚えるコツ
それは、国家賠償法の条文の趣旨を意識することです。
民法の不法行為でも、趣旨は大切でしたが、国家賠償法の分野でも同じです。
国家賠償法の趣旨は、『被害者保護』です。
『え??それだけ??』と思われるかもしれませんが、はい・・それだけです。
国家賠償法は、被害者を保護するために規定されていますので、これが全てです。
この趣旨から、1条や2条の要件を解釈していくのですが、この趣旨から、要件を解釈すると、論理的にどのようになるでしょうか?
被害者を保護するのが目的⇒被害者を保護するためには、できるだけ要件を満たす方向の解釈が必要だ⇒であれば、より多くの事案で要件が満たされるように、要件を広く考えよう。
となります。
上で公権力の行使の定義は広いねという話をしましたが、それはこの趣旨を重視しているからです。
そのため、国家賠償法の要件はかなり広めに解釈される傾向にあり、広く広く定義付ける傾向にあります。
この傾向を覚えておくと、結構楽に覚えることができます。
◇損失補償(財産関係)
行政法では、よく、国民の土地を収容する場面が登場します。
ここは、憲法の財産権の話とほとんど同じです。
憲法の財産権をしっかり勉強していれば、ほぼ困ることはありません。
ただ、一点だけ注意が必要な点があります。
それは、憲法の29条3項を根拠とした補償について、判例は相当補償説をとります。
つまり、国民が土地を収容された場合、その対価としての補償は完全なものでなくてもよいという判断をしています。
これに対して、土地収用法に基づく補償は完全補償であるという判断をしています。
完全補償の方が、補償としては十分な補償を受けることができます。
他にも、いくつか面白い判例がありますが、そう重要テーマでもありませんので、このあたりで。
6)地方自治
大きな項目で紹介していますが、そう重要なところではありません。
基本的には、難しい法律論もありませんから、地方自治法の条文の暗記が中心です。
その際、憲法の三権分立を念頭に比較して覚えると非常に覚えやすいでしょう。
また、地方自治は、憲法で勉強する国レベルの機関設計と比較して、より直接民主制を採用する規定が多いのが特徴です。
地方自治の長や議員を住民が直接選挙することが認められていますので、これは憲法とは大きく違う点です。
まとめ
長かった・・・。
ようやく最後までたどり着きました。
約2万字ほどになりましたので、だいぶ長くなってしまいました。
かなり長い記事になっていますが、ここで書いてあることは、本当に基本中の基本です。
レベル的には、この程度は全部説明できなければ、行政書士試験などでの行政法科目で合格点を超えることは不可能です。
といっても、身構える必要はなく、難しいところを除けば、このくらいなら、少し勉強すれば誰でも説明することができるようになります。
行政法は、行政書士試験では非常にウエイトの高い科目です。
勉強時間は、民法の方が圧倒的でしょうが、重要度は同じ程度です。
民法は、慣れるまですごく時間がかかってしまいますから・・・。
その点、行政法は、イメージしにくい科目ですが、他の法律の特徴を受け継いでいる科目ですから、他の法律をしっかり勉強していれば、慣れるにはそう時間はかかりません。
行政法は、一定のハードルを超えるまでは大変難しく感じる科目ですが、一度飛び越えてしまうと、問題自体簡単ですから、得点源になる科目です。
是非、ガッツリ勉強し、得点源としてやりましょう。